スペシャルティコーヒーのお店に入って、並んでいるコーヒーを見ると、コーヒーごとに小さなカードやラベルがついていて、それぞれのコーヒーの名前や情報が書かれている事があります。一般的には、コロンビア、エチオピアといった産地や農園の名前が書いてあるのですが、その下に、不思議なキーワードが並んでいるのを見かけた事はありませんか?
チョコレートやストロベリーといった食べ物の名前や、ジャスミンやラベンダーなどのお花の名前まで。これらは「フレーバーノート」と呼ばれる、それぞれのコーヒーの特徴として感じられる感覚を身近な食べ物などの風味に例えたものなんです。
ストロベリー、と書いてあるコーヒーは、イチゴの味がする?
例えばコーヒーのフレーバーノートに「キャラメル」と書かれていても、人工的にキャラメルの風味が添加されているという意味ではなく、実際にその食べ物そのものの味がするわけでもありません。
フレーバーノートとは、コーヒーを味わった時の風味や感覚、体験の特徴を、同じような感覚を呼び起こす食べ物に例える事で、コーヒーの味をより豊かに表現し、とても主観的な体験である「風味」をできるだけ皆が同じキーワードを通して互いに伝え、共有できるようにするための方法なのです。
産地によって特徴の傾向に違いも
ワインが産地や品種によってカテゴリー分けされるように、スペシャルティコーヒーも種類によって様々な特徴があります。コーヒーには1000以上の化学物質が含まれ、その複雑な組み合わせが抽出され幅広い味わいを作り出します。品種はもちろん、コーヒーが育った土地の土壌や気候、精製方法や焙煎方法、さらには抽出方法や飲む時の温度などで、感じられる風味は大きく左右されます。
おおまかに分けると、エチオピアやケニアなどのアフリカ系コーヒーの特徴は華やか、フローラル、フルーティー、明るい酸味、などと表現され、頻出するフレーバーノートは紅茶、シトラス、トロピカルフルーツ、アプリコット、ストロベリーなど。
グアテマラやコロンビアといった中南米のコーヒーは、バランスのとれたボディとまろやかな酸味が特徴的なものが多く、ナッツ、キャラメル、スパイスなどで表現されます。
フレーバーノートをまとめた図、「フレーバーホイール」
このフレーバーノートはスペシャルティコーヒー協会(SCA) によって1995年に一つの図にまとめられ、その車輪のような形から、フレーバーホイールと呼ばれています。(2016年に更新)
これも、カフェで見たことあるかも?
大〜中グループとしては香ばしさ、フルーティーさ、酸味、甘み、発酵した味わい、などがあり、例えばフルーツの中ではさらにドライフルーツ、ベリー、トロピカルフルーツ、などに細分化されていきます。よく見てみると、「ゴム、ガソリン、カビたパン、ホコリ、段ボール」など、あまり飲みたくならないような表現のグループも。魅力的な味わいだけでなく、望ましくないフレーバーもきちんと表現できるようになる事で、より表現の幅も広がり、コミュニケーションの精度も高くなるのですね。
フレーバーノートの使い方
味の体験という、とっても個人的で説明の難しい感覚を少しでも人と共有できるように、そしてそこからコーヒーをもっと美味しく、もっと掘り下げて楽しめるようにと考案されたフレーバーノート。共通言語を持つような、一つの共有された辞書を使って別の国の人と話をするような感覚かもしれません。でも、フレーバーノートに出てくる食べ物にそもそも馴染みがない、なんてこともありますよね。例えば、ブラックベリーやナツメグ、アニスなどは、日本では普段口にする機会が少ないかも。
インドとイギリスをベースに、コーヒーコンテンツクリエイターが夫婦で運営するアラムセ(Ārāmse)では、欧米で作られたフレーバーホイールでは、広い世界の色々な場所で実際にコーヒーを飲む人たちの体験に寄り添いきれない部分があり、それぞれのバックグラウンドや食習慣・文化によって感じ取る味やその表現方法も異なるのでは?という問題提起をしています。
日本では京都の大山崎コーヒーさんが、きなこ、さつまいも、梅シロップなど、日本の身近な食べ物も織り交ぜたフレーバーノートで、コーヒーを飲む人により伝わりやすいように工夫しているそう。
誰とどんな目的で味わいを共有したいのか?どんな場面でそれを伝えたいのか?それによって、色々な使い方の可能性が広がるフレーバーノート。自分でオリジナルのリストを作ってみるのも楽しいかもしれません。
今度コーヒーを選ぶときは、ぜひ注目してみてくださいね!