コーヒーと真正面から向き合い、業界の前線を走るバリスタさんたち。その姿をKOHII の若手クリエーターたちからコラム形式でお届けする企画です。
日本でスペシャルティコーヒーの人気店を立ち上げてきた黄金世代から最近お店に立ち 始めた新世代まで、コーヒーを通してバリスタさんとのカジュアルな会話を楽しんだり、ゲストの方のキャリアストーリーを見つめたり、今後の展望について伺っていきます。
コーヒーLOVERならではのお話やバリスタという職業の魅力など、直接会いに行けなくても、ワクワクできるような出会いをこの企画でお楽しみいただけると嬉しいです。
高部美希:Othello Coffee Owner・Qアラビカ・ロブスタグレーダー
By KOHII Creator@Jongmin
(K=KOHII, T=高部さん)
覚えるのに一分、極めるのに一生
KOHIIユーザーのみなさんにとって、いつものコーヒー屋さんはどこですか?
今やオンラインショップの発達によって、遠くにいながらも個性豊かなロースターさんのコーヒー豆を取り寄せられるようになりました。それにも関わらず直接、店舗まで伺いたくなるコーヒー屋さん。
今回のKOHII meet Barista では、大分県別府市にあるOthello Specialty Coffee Roasterの高部美希さんをインタビューしました。
別府駅から商店街を抜けると、比較的大きな通りに面しているガラス張りのコーヒー屋さんが見えます。店内はそれほど広くはないけれども、天井が高く、窓の外の景色が見え、とても開放感のある空間。壁面にはポップな絵や装飾品が飾られいて、気持ちを上げてくれます。カウンターで一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れている高部さん。
K:Othello Specialty Coffee Roaster(以下、Othello Coffee)の名前の由来はなんですか?
T:最初、名前を決めるときに自分の好きなものの名前をつけたかったんです。私は山が好きなので、ネパールのアマ・ダブラムという山の名前をつけようと思いました。でもよくよく考えてみるとアマ・ダブラムコーヒーとか、誰にも覚えてもらえる気がしなくて覚えてもらい易い名前を考えることにしたんです。大体3文字くらいかなと考えたときに「オセロ」が頭の中に想い浮かんだんです。多くの方がOthello Coffeeの名前の由来がゲームのオセロから来たと思う方が多いのですが、実は私が好きなアーティストの名前なんです。ジャズヒップホップミュージシャンでとても有名というわけではないので、それを連想するお客様は少ないと思いますけどね。
でもお客様にはオセロゲームを連想して覚えてもらえたら良いかなと思ったことも理由です。
K:アーティストの名前なんですね!他に何か理由はあるんですか?
T:これは後付の理由にはなりますけど、オセロのゲームのキャッチコピーがとても奥深いものなんです。「覚えるのに一分、極めるのに一生」英語では、「A minute to learn, A life time to master」このメッセージを知ったときに、コーヒーにも通じるものがあるので自分の心に響きました。
K:確かに印象的なメッセージですね。すごい奥深いです。コーヒーの話になったからお聞きしたいのですが、高部さんからのおすすめのコーヒー豆や器具などはありますか?
T:コーヒー豆に関しては、どれもそれぞれの良さがあるんですけどOthello Coffeeのラインナップの中では、アイスコーヒーブレンドは、面白いなと思っています。アナエロビック・ファーメンテーションと呼ばれる発酵プロセスを経たベトナムのロブスタ種の豆を少しだけブレンドしているんです。ロブスタ種にもファインロブスタと呼ばれるスペシャルティグレードの豆があって、ロブスタ種ならではのボディ感と力強い風味があるんです。ラム酒やドライいちじくのような強烈な果実感を感じさせます。
おすすめの器具は、amaiのカップですね。コーヒーを飲む器によっても味や気分が大きく変わると思うんです。ベトナムに行ったとき出会ったamaiのカップはどこか不揃いのように見える手作り感が魅力的なんです。色合いも豊かでおもてなし用でも良いですし、カップのふちが薄いのでコーヒーを飲むときの口当たりがちょうど良いです。日頃から日常に溶け込むようなコーヒーをつくりたいと心がけているので、おうちでのコーヒー時間には好きなカップで気分を上げてもらいたいです。
“日常に溶け込むようなコーヒー”
T:朝にコーヒーを飲んで気分が高まることは素敵じゃないですか。朝の始め方が良いと、一日を過ごす中で前向きなエネルギーをもらえて、何もかも上手くいきそうな自信になりますよね。そういう日常的に楽しめるコーヒーをお客様に届けたいんです。特別なときに飲む特別なコーヒーも素晴らしいですが、近頃はお家で過ごす時間も増えているので、ぜひともコーヒーを淹れるところから楽しんでみることもお勧めします。わからないことがありましたら、気軽に聞いてみてください。
コーヒーに憑かれた男に憧れる
K:コーヒーに興味を持ち始めたきっかけはありますか?
T:最初にコーヒーに興味をもったきっかけが、それこそサードウェーブという言葉が出だす前の話です。東京の老舗の喫茶店にカフェ・ド・ランブルというお店があるんです。私の両親が炭火で焙煎をするような喫茶店を営んでいたので、コーヒーに馴染みはあったんですけど、ランブルの関口さんの存在を知って、コーヒーに対する想いが大きく変わりました。
関口さんが書いた著書などを読む上で、一つのことを追求し続ける職人魂に憧れを持つようになったんです。関口さんは生涯をコーヒーに捧げた方で、何度もお会いしたいと願い、お店の方にも伺ったのですが、結局は一度もお会いできないまま、関口さんは亡くなってしまいました。コーヒーに夢中になり始めたのはその頃の話ですね。
そういう経験もあるので、オセロのキャッチコピーである「覚えるのに一分、極めるのに一生」という言葉に、なおさら惹かれたのかもしれませんね。
K:学生時代が終わって、すぐにコーヒー屋さんになろうと動いたんですか?\n\nT:いいえ。若い頃はすごい迷った方だと思います。当時は本当にやりたいことがわからなくて、勉強もあまり好きではなかったので進学もしませんでした。
それでも20代半ばで初めて興味を持つ仕事ができました。大きいホテルでのエステティック関連の仕事で、豪華な雰囲気や施術が好きでした。技術を教えてくれる先生も尊敬できる方だったので10年務めました。そんな中、仕事の休憩中にスタッフにコーヒーを淹れる事が日課になり、リフレッシュに欠かせないものになっていきました。そんな時、ランブルとの出会いもあり、コーヒーにも興味を持つようになったのですが、自分でコーヒー屋さんになるという決断ができず、しばらくの間、前職の仕事を続けました。
でもある日、私のいる部署が無くなることになり、退職を選びました。人生の転機はいつ訪れるのかわからないものですね。それからは大手コーヒーチェーン店の店長を一年間務めました。そして通勤する最中に今のお店の場所が貸店舗になっているのを見つけたんです。ガラス張りで中が見えるオープンな空間で、高い天井が開放感を与えて、自分のお店のイメージそのものでした。
K:コーヒーの勉強はどのようにされたんですか?
T:コーヒーの勉強は自分で創意工夫していく側面もあれば、例えばセミナーに参加するなどと外からの情報を探すのも大事だと思うんです。個人的にはお家にあるような缶で手廻しに近い焙煎機をつくって、色んな豆を取り寄せて焙煎をしました。後は色んなコーヒーを飲みに行きましたね。
他には興味を持っていたQグレーダーという国際認定資格の講習を受け、受験しました。スペシャルティコーヒーの専門店をやる以上は、自分が客観的にコーヒーを評価できているか知りたいと思いました。アラビカとロブスタグレーダーの二種類があるんですけど、どっちも勉強しようにも当時の自分には材料があまりなかったんですよね。なので試験には苦労しました。
K:Qグレーダーになるには、具体的にどういう試験を受けるんですか?
T::Qグレーダーになるには、21項目の試験のうちすべての試験に合格しなければいけません。試験項目も多くて、味覚や嗅覚の鋭さを試されます。とはいえ才能に恵まれなければいけないというわけでもなく、誠実にトレーニングをすれば合格は充分可能だと思います。
Qグレーダーになってからもスキルを維持し続けることが大切です。熱海の施設では、コーヒーの鑑定をさせて頂ける機会もあるのでコーヒー豆を評価することが生産者の生活に直結するため、責任感を持って普段からトレーニングする必要があります。
誰かの日常に溶け込むコーヒーを届ける
K:これから挑戦したいことを教えて頂けますか?
T:そうですね。今年はお店の焙煎機を変えたことをきっかけに営業スタイルも大きく変えました。お客様にコーヒー、そのものの魅力をより伝えたいと思い、店内のカフェ営業を一旦お休みして、コーヒー豆の販売に集中するようになったので、まさに今が挑戦の真っ最中です。焙煎機を取り替えるにも何回かトラブルが生じ、大変なこともありましたが、お客様から励ましの言葉を頂き様子を見に来てくれるなど、支えられているばかりです。
お店でコーヒーを飲むだけではなく、お家でもコーヒーを楽しんでもらえるように、それこそ日常に溶け込む美味しいコーヒー豆を届けていきたいと思います。例えば精製方法の違いなども踏まえて、よりコーヒーのことをもっと知ってもらいたいですね。
K:最後にいつもOthello Coffeeに訪れてくれるお客様やコーヒー業界を目指す若い世代に何かメッセージはありますか?
T:コーヒー業界を目指す中で、悩みも多いかなと思うんです。何にせよコーヒーとの関わり方は、本当に多様です。
例えば商社で働く人から、バリスタとしてお店で勤務して、独立をする方もいますよね。多様な選択肢の中で、自分に何ができるんだろうと思うこともあると思いますが、だからといって人がしないようなことを無理に探さなくていいと思います。
マーケティングは大事ですが、コーヒーは抽出一つにしても、本気になれば何十年も突き詰められる訳で、焙煎もそうですよね。終わりというものがない奥行きのあるコーヒーの世界だからこそ、その人のコーヒーというものは必ずあるはずなんです。だから日々の変化を楽しみながら、誠実に、そして前向きにコーヒーと向き合い続ける姿勢が大事かなと思います。そうすれば必ず自分のコーヒーというものの輪郭が見えてきます。
そして、お客様にはいつも見守って、育ててもらっているなと思います。私も完璧ではないので、常に発展途中だと思います。その道程に付き合って頂いているので、いつも支えられているなと思います。これからもよろしくお願いします。
取材を終えての感想ですが、KOHIIではライターをしている私ですが、将来的にはコーヒー業界に深く携わりたいと夢見ています。そういう私がコーヒーキャリアを踏む上で壁にぶつかる時に、訪れる場所がOthello Coffeeです。個性豊かでたくさん美味しいコーヒーを飲める今ですが、その人の日常に溶け込むようなコーヒーは、その個人の経験に伴うのではないかなと思います。KOHIIユーザーのみなさんにとって日常に溶け込むようなコーヒーはどんなコーヒーですか?
<プロフィール>
高部美希
大分県別府市出身、Qアラビカ・ロブスタグレーダーを取得し、生産農家まで明確に追跡できるスペシャルティコーヒーにこだわる。今年でOthello Specialty Coffee Roasterをオープンして7年目に突入する。
<Othello Specialty Coffee Roaster>
〒874-0943 大分県別府市楠町13−1
Othellospecialtycoffeeroaster(@othello_coffee) • Instagram写真と動画
<KOHII Team>
Jongmin/00/From🇰🇷(@jong_lovecoffee) • Instagram写真と動画
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(執筆・編集:Jongmin)