「やりたいのは、コーヒーカルチャーの底上げ」小坂田祐哉さん【KOHII meets Barista】

コーヒーと真正面から向き合い、業界の前線を走るバリスタさんたち。その姿をKOHIIの若手クリエーターたちからコラム形式でお届けする企画です。

日本でスペシャルティコーヒーの人気店を立ち上げてきた黄金世代から最近お店に立ち 始めた新世代まで、コーヒーを通してバリスタさんのキャリアストーリーを見つめたり、今後の展望について伺っていきます。

コーヒーLOVERならではのお話やバリスタという職業の魅力など、直接会いに行けなくても、ワクワクできるような出会いをこの企画でお楽しみいただけると嬉しいです。

小坂田祐哉:Raw Sugar Coffee Roasters/コーヒートレーナー/バリスタ/焙煎士

By KOHII Creator@Saori 

今回のゲストは、GLITCH COFFEE & ROSTERSの立ち上げメンバーで、KOHII meets Baristaの第一弾で取材させていただいた小田さんと一緒にRaw Sugar Coffee Roasters(元Swim Coffee)を運営されている小坂田祐哉さん。

取材場所は、小坂田さんが立ち上げから携わっていらっしゃる学芸大学のWR.。駅から徒歩3分ほどの立地で、静かな住宅街に一際目立つおしゃれなコンクリート打ちっ放しの外装。チーム全員がアイデアを出し合ったというこのお店で、スペシャルティコーヒー業界に対する考え、目指す方向について伺いました。

“味のブレを最小限にするために”

ーー最近お気に入りの器具や豆はありますか?

GINAは良いですね。最初、ドリッパーにお湯を入れて3分くらい蒸らしておくんです。その後に下の抽出口を開けて抽出するのですが、その透過スピードが絶妙で、すごく良い。ちょっと高くて、3万円くらいするんですけどね。

美味しいコーヒーを淹れるときは、水とグラインダーも選ばないとですね。家で淹れるときは基本的には浄水(水道水)ですが、水の質が違うと味の出方も違うので、良いコーヒーを淹れるときは水とグラインダーも良くないと、コーヒーの味を完全に表現はできないです。

お気に入りの豆は、アナエアロビック・ファーメンテーションっていう精製方法で作られたものですね。スペシャルティコーヒーの中ではこの精製方法がかなり多くなりつつあると思います。

ーーコーヒーを淹れるときに大事にしていることはありますか?

前提として、数値化できるものは全部数値化します。豆の量、お湯の量、温度、抽出量、収率(抽出率)などです。測ったり数値化したりせずに、感覚やセンスで淹れるのもすごいなと思うのですが、人間なのでその感覚はブレると思うんです。例えば、風邪気味で味がわからなくなったり、コーヒーを淹れる直前にすごい腕の筋トレをしてケトルの重さがわからなくなったり、様々な事が要因となり、人はブレてしまいます。そういう影響をなるべく少なくするために、出来るところは全部数値化します。

お店のレシピ作りでも、できるだけ人為的な要素を加えないようにしています。コーヒーって、焙煎をちゃんとしていたらお湯を淹れるだけで美味しくなるんです。でも、秒数を計らず蒸らしが長くなったりするとコーヒーに対して余計なテンション(負担)がかかってしまう。そうすると苦味や渋みという余計なものが出てきて、コーヒー本来の味にフィルターをかけてしまうので、人為的要素はできるだけ排除するようにしています。

色んなお店で出してもクオリティがコントロールできるように、という意味でもです。

やりたいのは、コーヒーカルチャーの底上げ”

ーーお店に立たれるとき、お客さんとのコミュニケーションで意識されていることはありますか?

バリスタって、コーヒーを伝えるという責務があると思っています。だから、券売機で事足りるようなコミュニケーションをするつもりはないですね。

例えば、お客さんに「苦くて酸味がないコーヒー下さい」と言われたとします。酸味って美味しいコーヒーの大切な要素なんですが、酸味がないものが飲みたいということは、お客さん側の酸味に対するイメージと、実際の酸味の美味しさの間に認識の差があるということなんです。カウンターでそのギャップのすり合わせをしないから、お客さんは本物のキレイな酸味を知る機会がない。美味しいコーヒーがあるのに、知らないってすごくもったいないと思うんです。それは今まで、僕を含めたバリスタやスペシャルティコーヒーに関わってきた人間が、酸味のことをお客さんにちゃんと伝えて来なかったからです。

作り手として、本当のスペシャルティコーヒーを広めないといけないのに、広めようとしないからマーケットも広がらないんです。

僕がやりたいのは、「コーヒーカルチャーの底上げ」です。底上げをしない限り、マーケットは絶対に広がらない。だから僕はお客さんにコーヒーを伝えるというコミュニケーションを心がけています。

あと、農園やインポーター、商社、ロースター、バリスタ、消費者、それぞれのフェーズでコーヒーに対する考え方が全然違うんです。正解不正解はないですが、それぞれのフェーズでの考え方の差異を無くしてばいけばいくほどマーケットにとってはポジティブなことなので、自分がコーヒーでコミュニケーションしていく上では、なるべくこのギャップを無くす。それが目標です。

コーヒーをやる上で、ずっと変わらないモットーがあります。「コーヒーの概念を覆すこと」と、「1杯のコーヒーで人を感動させること」。有難いことに、僕のコーヒーを飲んで「人生変わりました」とか「バリスタを目指しはじめました」と言ってくれる人達がいてくれています。コミュニケーションがダイレクトなので、すごくやりがいを感じながら働くことができていますね。

大手に対するアンチテーゼ

ーー小坂田さんのバックグラウンドである音楽とコーヒーは何か繋がる部分はありますか?

僕がバリスタを始めたきっかけでもあるのですが、バリスタという職業を知った時、すごくパンクに感じたんです。大量生産が一般的なコーヒーを、1杯1杯カウンターで淹れるという大手に対してのアンチテーゼを感じてパンクだなぁと思って。僕も、出身地の北海道でパンクやハードコアの音楽をやっていてカウンターカルチャーの中で育ってきたので、バリスタの反骨精神のような部分に魅力を感じていました。そういう意味で、僕の中で音楽とコーヒーは繋がっていますね。

ーーキャリアのきっかけを教えていただけますか?

音楽業界で働くために北海道から東京に出てきて、その後業界を離れ、エスプレッソマシーンのあるカフェダイニングで働いていました。最初は何となく触るくらいでしたが、段々興味が出てきたのでラテアート世界チャンピオンのお店に行った時、世界チャンピオンが出すカフェラテより、自分が働いているお店のカフェラテの方が値段が高かったんです。これはおかしいと思いましたね。そういうのがすごく嫌で、少しでも近づくようにラテアートを練習し始めました。

そうしているうちに、そもそもエスプレッソって何なんだ?と思い、色んなお店を飲み歩いて、バリスタ世界チャンピオンの専門店Paul Bassettに行き着きました。ここに通って、1人でエスプレッソを飲んだり、バリスタの方とお話したり、働いている姿や環境を見て、ここでならちゃんとコーヒーが学べると思い、働きたいですと直談判しました。その頃には完全にバリスタとして働きたいという想いが出来ていましたね。

小田がいたカフェヴィータもすごく厳しいのですが、Paul Bassettも厳しかったです。まず一般的な業務が滞りなくできないと、コーヒーには触る事すら出来ません。その後にバリスタになるための試験が、筆記・カッピング・抽出・オペレーションなど6つ以上ありました。僕は運も味方をしてくれて半年で受かったのですが、2・3年バリスタになれない人もいるので、かなり早い方だったと思います。

ーーバリスタになられた後はどんなキャリアでしたか?

Paul Bassettでは鈴木ヘッドロースター(キヨさん)に色々と面倒みてもらいましたね。ある日、休憩中に「独立するから一緒にやろうよ」と言ってもらって立ち上げたのがGLITCH COFFEE & ROASTERSです。ここのオープニングメンバーとして、マネージャーとトレーナーの経験を積みました。

GLITCHのコンセプトは「日本からコーヒーを発信する」。当時、海外からのコーヒーショップが続々オープンして、みんな海外のコーヒーに目が向いていたんですが、僕ら日本のコーヒーはどうして注目されないんだ、という思いでした。

オープンしてみていかがでしたか?

GLITCHが求めるクオリティは高く、自分たち自身もコーヒーで世界を取りに行くつもりだったので、めちゃくちゃ厳しかったです。美味しいコーヒー出すのはコーヒー屋として当たり前。その上でどうやってお店を回していくかというマネジメントが重要で、勉強になりました。コーヒー淹れて、数値管理して、怒られて、無理やり育ててもらいました(笑)キヨさんは僕の恩師ですね。

GLITCHも、コーヒー自体も何回かやめようと思いました。「俺、コーヒー淹れるセンスないんだろうな」とも思っていましたし。他の業界で転職先を見たりもして、でも結局戻ってきて。というのを繰り返していました。

そんな頃、小田が「そろそろ一緒にやりましょう」と連絡をくれたんです。小田とはキヨさんを通して元々知り合いで、考えもやりたいこともビジョンも似ていたので、いつか一緒にやろうと話をしていた仲でした。

小田がSwimを始めて1年くらいのタイミングだったと思います。僕も働き方を変えようと思っていた時だったので、すぐに会いに行きました。

ーーこれまでのキャリアで、ターニングポイントはありましたか?

GLITCHを辞めたタイミングです。僕はGLITCHのバリスタとして認知してもらっていたので、GLITCHを辞めるということは、自分の武器がなくなるのとイコールに近いようなものでした。自分からGLITCHを取ってこの先に行く、それでも自分は第一線でやっていけるのか正直不安にもなりましたが、視点と考え方を変える事が出来たターニングポイントになったと思います。

バリスタは、伝えるという責務のある仕事

ーー小坂田さんにとってバリスタはどんな仕事ですか?

伝えるという責務のある仕事です。バリスタが伝えないと、そこまで携わっていた人のストーリーが伝えられずに終わってしまう。バリスタはお客さんへの最後の架け橋だと言われたりしますが、本当にそうだなと思います。バリスタはカウンター商売でもあるので、自分で作って自分で伝えられる。そういうチャンスがあるのに伝えないのはもったいないです。

ーースペシャルティコーヒーはどんな存在ですか?

飲むのではなく、味わうものです。自販機で買ったコーヒーは飲むだけですが、バリスタが淹れるコーヒーは、どんな空間で、ホスピタリティで、何を伝えて飲んでもらうかで80点のコーヒーを100点、120点にまでも持ち上げる事ができます。点数が上がるコーヒーって、ただ飲むのではなくて、一杯から物語を感じて味わってもらえるものだと思います。

“人間性をつくる、下積みの時間”

ーー若い世代には何を伝えたいですか?

今、下積みは非効率的だと言われつつありますが、下積みは大事だと思います。技術を磨くための期間というより、社会人としての人間性を構築するための期間だと思うんです。

お店に入って、2ヶ月でコーヒー淹れられるようになって「バリスタです。」と名乗る人もいますが、何かが伴っていないことが多いのも事実です。10年積めというわけではないですが、人間性をつくる期間として、自分と向き合い、考えるための期間だったので、大切だよと伝えたいです。自分と向き合った結果、その表現としての一杯になるので。

ーー小坂田さんが学校で講師を始められたきっかけは何ですか?

講師をしたくなったのは、カルチャーの底上げには、作り手の底上げが必要だと思ったからです。バリスタへのセミナー等もやっていますが、もっと先のことを考えた時に教育は大事だなと思ったんです。今20歳くらいの子達に、僕が培ってきた技術と知識を教えたら、その子達が僕の年になった時には僕を超えられていると思います。それは業界にとってもマーケットにとっても良いことです。あと10年経ったら業界が変わっていることを願って、教えています。

ーー今後のチャレンジや夢はありますか?

ちゃんと、美味しいものが美味しいと価値をつけられる社会にしたいです。絵画でも写真でもなんでもそうなんですが、いいものって価値がつくじゃないですか。その価値をつけられる人が多くなってくれたらいいなと思います。例えば、海外では価値が認められて5万円の値段がついている写真が、日本にきたら3000円になっちゃうって、表現者たちに対してのマーケットが確立されていないということですよね。コーヒーも似ていると思います。そのマーケットが確立されれば、バリスタという職業もちゃんと市民権を得て、一飲食店員ではなくバリスタという職業として確立される。レストランでいうソムリエのような。そういう役職としても認めてもらいたい。そうするためにはまず作り手たちが、社会に対して伝える、発信するということを続けないといけないと思います。

ーー小坂田さんの原動力ってなんですか?

単純に、自分がいいと思ったものを世の中に認めてほしいと思っています。自分が音楽やっていたら、音楽を通して同じことをやっていると思います。腰掛けの仕事を一番したくないので、アウトプットをちゃんと持とうと心がけています。

あとがき
スペシャルティコーヒー業界に対して、明確な考えと目標を持つ小坂田さん。取材中、その一貫した思いがヒシヒシと伝わってきて、こっちまで気持ちが熱くなる程でした。KOHIIチームも、スペシャルティコーヒー業界を盛り上げるために熱量を持って、考えて、行動していきたいと思います。小坂田さん、ありがとうございました!

<プロフィール>

小坂田祐哉
Raw Sugar Coffee Roasters/コーヒートレーナー/バリスタ/焙煎士

Raw Sugar Coffee Roasters

WR.
住所:東京都目黒区3-5-7 MT357-1F
HP / Instagram

A cup of KOHII with Love

(執筆・編集:Saori, Shimakou

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