カウンターから川の流れを眺め、スペシャルティーコーヒーに浸る。郡上八幡「supple coffee roasters」

昭和初期に建てられた倉庫をリノベーションした建物は、あたたかさと懐かしさを感じる落ち着く空間。窓際の席では、清流吉田川を眺めながらスペシャルティーコーヒーを楽しめる。バードウォッチング用の双眼鏡が備えてあり、自由に使うことも。「エチオピアが好き」という店主がハンドドリップで丁寧に淹れる、こだわりのコーヒー。岐阜県郡上市八幡町にある「supple coffee roasters」オーナーの岩田桂太さんとコーヒーの出会いやこだわりについて話を聞いた。

独学で焙煎したエチオピアに可能性を感じた

もともとは名古屋に住んでいて、この郡上八幡は母の実家でした。その裏にずっと使われていない家があり、僕が高校卒業したくらいのタイミングで父親が脱サラしてこの場所に移住し、自家焙煎珈琲の喫茶店を始めました。それが、コーヒーとの出会いになるのかな。僕はその時まだ東京にいて、その10年後に戻ってきたんですけど。

東京では、フリーターをしながら趣味であるスケボーする日々でしたね。スケボーしたくて、東京に行ったみたいなところもあって(笑)。徐々に「こんな生活してたらいかんな」と思い始めて、地元に戻って就職して自分の道を探そうと。地元の企業で働きつつ、この会社にずっといることはないな……という気持ちがあり、実家の喫茶を継ごうかなぐらいの軽い気持ちで。

東海地方はモーニングにはじまる喫茶店カルチャーがあり、コーヒーはすごく重要な立ち位置ではありましたが、店に来る人がコーヒーの美味しさをそこまで求めているのかと。店ではコモディティコーヒーばかり扱っていたんですが、僕が焙煎をしだしてスペシャルティコーヒーも知るようになると、店で出すコーヒーと自分が出したいコーヒーにずれを感じてきたというのが、正直ありました。でも僕がこの店を継いでガラッと変えても、うまくいくイメージが自分の中ではちょっとないというか。それだったら新しい場所を探して、スペシャルティコーヒーとしてちゃんと出せるようなコーヒーを自分で作った方がいいかな、という気持ちが強くなってきたんです。

コーヒーを自分で調べていくうちに、東京ではスペシャルティコーヒーが当たり前の時代にはなっているのを知りました。東京に足を運び、いろいろな店に行って飲んでみたりして、コーヒーの知識を深めていきました。

僕がコーヒーを詳しく知るきっかけになったのが、東京の「Bear Pond Espresso(ベアポンド・エスプレッソ)」という古いエスプレッソをメインとしたお店。「A Film About Coffee」という世界中のロースターさんやスペシャルティコーヒーを追うドキュメンタリー映画にも登場します。そのバリスタさんのコーヒーを飲んで、ガラッとコーヒー屋さんのイメージが変わりました。

僕が知ってるコーヒーって自分の父親がやっていた喫茶店で、おじいちゃんおばあちゃんが集まってモーニングでガチャガチャするっていう世界しか知らなかったんです。コーヒーが主役のお店っていうか、自分が納得するまでオープンしなかったり…。そういうスタイルとか、コーヒーにかける思いとか。同じコーヒーを出す店でも僕が見てきたいわゆる喫茶店とはジャンルが違うっていうところに、すごく芸術というかアートというを感じて。高校を卒業してフリーター時代に東京にいるときにはあまり感じなかったですが、こっちに戻ってきて逆にそういうのを知って衝撃でしたね。

そして当時、自分なりに焙煎して飲んだエチオピアコーヒーに衝撃を受けました。自分で生豆を取り寄せて、これぐらいかなという感覚で焙煎しただけでしたが、一口目で歴然とした差がありました。これはもっともっと可能性があるのかな、と。「今までうちで出していたコーヒーと全然違うな」と感じたのが決定打となり「自分の店を開こう」と。スペシャルティコーヒーをメインとしたコーヒーショップを出したいという思いで、今の「supple coffee roasters」を始めました。

コーヒーには色々なフレーバーがあってそれぞれ好きではあるんですけど、最初に飲んだエチオピアが好きです。すごく香りが甘くて、チョコレートみたいな感じ。でも飲むと、ベリーっぽさを感じられたり。一般的に言うとフルーティーなフレーバーというんですか。僕はエチオピアのその雰囲気がすごく好き。僕は柑橘系よりチョコレートとかナッツっぽい感じのコーヒーが好きですね。

郡上市でいうと、スペシャルティコーヒーの浸透はまだまだで、やっぱり喫茶店が主流。モーニングの文化が定着していますね。ですが、ちょっとずつ若い子たちがお店を開いたりもしています。お店ではもちろん、コーヒーは絶対的に楽しんでもらいたいですが、ありきたりかもしれないですけど、店からの風景なんかを見てもらって満足して帰ってもらいたいです。それは、ここ郡上という場所だからこそだと思いますね。お客さまが「ここに来てよかったな」と思ってもらえるのが一番です。

SUPPLE COFFEE ROASTERS

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