
「アメリカの西海岸をイメージして店舗づくりをしました」
東京・乃木坂という都会のど真ん中にありつつ、どこか海外の郊外のような雰囲気。もとは宅配センターの集荷場の跡地に建設されたというだけあり、広い。だだっ広い。広い空間に、空の抜け感。まわりを囲む広々とした広場。ロケーションは最高だ。

店内には、インダストリアル風な空間に、アートやデザインが散りばめられている。「Little Darling Coffee Roasters(リトル ダーリン コーヒー ロースターズ)」という店名は、青春映画『リトル・ダーリング』から名付けられたそう。それは、「愛おしいもの」「愛おしいひと」という意味がある言葉で語呂もよく、そこにある「エモさ」みたいなものが、コーヒーを飲むマインドにマッチするから。今回は、コーポレートバリスタの赤川直也さんに話を聞いた。
コーヒーを提供する温度にこだわりたい
コーヒーに携わる前は、和食の板前をしていました。そのときは、全然コーヒーは興味なかったんですよ。コーヒーの粉末にお湯に溶かして飲むくらい。当時働いているお店では、自分が作ってるものがお客さんに届いている姿が全然見えなかったので、自分が作ったものがお客さんにどう届いているか、お客さんの表情を直接ダイレクトに感じられる仕事をしたくて。そこで考えるようになったのが、カウンター業務。人と接しながら、ドリンクを提供するっていうサービスに憧れを抱いていました。そのころ初めて行ったスターバックスで、コーヒーってただ苦いだけじゃないのかも、と感動したことがあり。そのころから徐々に、コーヒー、いいなあと。

板前を辞めスターバックスに入社し、コーヒーのイロハを学びました。働くうちに、自分にしかできないことをしたいなと思うように。そんなときに出会ったのがラテアート。弊社トランジットジェネラルオフィスのラテアートが有名な店に転職し、ラテアートを極めるように。

この頃はとにかく、独学で猛勉強をしましたね。業務用のエスプレッソマシーンをネットオークションで競り落として(笑)、家でひたすらコーヒーを淹れました。アスリートが5日間休むと、取り戻すのに3日かかる、なんて言うじゃないですか。それと同じだなと思い、取り戻す時間がもったいないな、と。毎日向上できる環境をつくったほうが成長できるんじゃないかと思って、ただ場数をこなしていましたね。
当時はインスタグラムが流行り出す前のころかな、ラテアートを発信してコミュニケーションとったり。もともとそういう手先の使うようなことが好きだっだし、練習すればするほどラテアートが上達するのも楽しくて。お客さんの反応が目の前でわかるのも嬉しかったです。

そうしていくうちに、今度はコーヒーの味のほうに興味がでてきました。でも、コーヒーの味って、ほんとに複雑。どうしたらこれは美味しくなるんだろうと考えて、こうじゃない、ああじゃない、とトライアンドエラーを繰り返して。
最初はエスプレッソマシーンしか触っていなかったですが、ハンドドリップも極めていきました。器具一つでもいろんな種類があるし、フィルターもさまざま。使う水も全然違えば、豆だってどんどん変化していく。コーヒーって研究しがいがあるし、どれだけやっても正解が見つからないし、正解に辿り着けない。そここそが、一番楽しいところですね。

お店では、コーヒーの味だけじゃなくて空間作りにこだわっています。コーヒーの理論や知識をお客さんに伝えるよりは、この空間のなかでどういうコーヒーを出したらお客さんが喜んでくれるのか、を常に考えています。

細かいところでいうと、季節やその日の気温によって提供温度をコントロールしたりとか。コーヒーって、温度変化で味が変わるから。冬の朝に買いにきてくれる人は、オフィスまで持っていく間に冷めないように熱めで提供したり。店内ですぐ飲むお客さんにはあまり暑すぎない適温のものを。
豆の種類も聞かれたら温度に着目しておすすめしたり。暑い日は浅煎りのケニアとか美味しいと思うし、逆に今日みたいな寒い日はほっこりするようなブラジルの深い豆がいいなとか。
ハンドドリップはちょっとずつわけて飲んでいただくんですけど、温度変化が楽しめるように淹れたりします。

あとは店内の調光や、BGMの音量なども全体的に考えて、お客さんに居心地がよくなってもらうことを追求。一杯のコーヒーの感じ方って、ものすごい可能性があると思うから
コーヒーを味わうとき、個人的には、ぜひバリスタのかたとコミュニケーションをとってみてほしい、と思います。コーヒーをゆっくりと一人で飲む楽しみももちろんありますが、バリスタと他愛もない話をするのも楽しかったり。その人しか出せない味があるから、それもまた楽しんでほしいですね。

うちお店では、豆の香りを嗅げるようになっているので、それで直感的に選んでもらうのもいいですね。

今までで、「このコーヒーがおいしかった」という思い出のコーヒーはいろいろあるんですけど、一番最初に感動したのはスターバックスで飲んだ、エチオピアシダモ。ベリー感が強くて、フローラルで。豆乳とあわせたら、ほんとにおいしくて。コーヒーのことを何も知らなかったときに飲んだので、その衝撃はよく覚えています。

コーヒーの味に敏感でいるように、オフの日はコーヒーを飲まないです。すごく飲みたいんですけどね。逆に飲まないようにすることで、飲みたい気持ちをさらに高めるというか。そしてコーヒーのことを一回忘れることによって、0からスタートします。

趣味は、カメラ。10年くらいやってて、仕事にすることもあります。昔ラテアートやっていたときにそれを綺麗に撮りたくて始めました。写真も、沼ですね。掘れば掘るほど、みたいなところがあって、コーヒーに似ているなあと思います。
撮影:yoko