音楽やアート、ストリートカルチャーの発信地、渋谷。特にアパレルショップやカフェの集まる神南の地に根付いたコーヒーショップとして、常に新しい魅力を提案し続けている『Roasted COFFEE LABORATORY(ローステッド コーヒー ラボラトリー)』。

このお店の特徴は、なんといっても立派な焙煎機があること。焙煎したてのいわば「MADE IN SHIBUYA」のフレッシュなコーヒーが味わえる。今回お話を伺ったのは、ストアマネージャーの伊藤貴雅さん。

淹れる所作を大事に。音を立てないように
コーヒーの業界に入って、ちょうど10年くらいが経ちました。それまでは、全く別畑にいました。大学卒業後は音楽業界でライブ活動と楽曲作成をし、その後縁あって小さいベンチャー企業に転職。コーヒーと出会ったのは、その頃。通勤途中の駅にあるスターバックスへ、週2〜3で通うようになったことがきっかけでした。出社時に立ち寄ったり、仕事終わりにまた寄って残務をしたり。当時の自分にとってスターバックスが生活に切っても切り離せない存在に。
とはいえ、じつは当時はコーヒーは一切好きではなくて。それこそ、ブラックのコーヒーなんて飲めなかった。通っていたスターバックスで頼むのも、ホワイトモカのような甘いドリンクばかり。
そうして店に通ううちに、バリスタのかたと仲良くなりまして。ある日、名前を聞かれたんです。名前を聞くってなんだと思いつつ答えたら、次行ったときにお店の方全員が私の名前を知っていてくれてまして。「伊藤さん、今日もお疲れ様です」と。
ちょっと感動しました。すごいな、こんな接客ができるんだなと。

コーヒー自体に興味はなかったとはいえ、そういったコミュニケーションの中でコーヒーの試飲を勧められて飲んだりしているうちに、少しずつブラックコーヒーを飲めるようになってきました。しかも飲んでみると、あれ、美味しいかもしれないぞと。
そんな折、スターバックスの求人に出会いました。バリスタという仕事に強烈な印象があったので、その世界に飛び込んでいきたいなと直感的に感じて入社。その時点では、コーヒーというより、バリスタという職業に興味がありましたね。そこで、ケニアとスマトラの飲み比べをしたのですが、同じコーヒーであるのに全く違う味。何だこれは、とびっくりしました。いままでは、コーヒーとはみんなほぼ同じ味だと思っていたので……。

好きなコーヒーは、エチオピア産でナチュラル加工のもの。艶やかなベリー感とフローラルな香りが鼻から突き抜ける感じが強烈で最高です。ドリップにしても華やかですし、エスプレッソにしても美味しい。ラテにすると、ミルクの甘さとの相性ばっちり。私の中ではそれを超えるコーヒーはないんじゃないかってぐらい、好きですね。
コーヒーを淹れるときのこだわりは、淹れる一杯一杯に、その一瞬一瞬に魂を込めること。今の自分ができる最高のレベルで丁寧に入れて、常に完璧に追求しています。本当に細かく0.1グラム単位で軽量したり、コーヒー豆が劣化しないように空気に触れる時間をできるだけ短くしたり。
そして、淹れるときは手際よく。

バリスタは「見られる」仕事ですので、手際よくありながらも美しい所作を心がけています。バタバタしていたら、せわしないじゃないですか。流れるように素早く。姿勢も大事ですし、一番気にかけているのは、音を立てないように淹れることですね。
そして、コーヒーのプロではありつつも、お客様に対してなんかどこか親しみやすさがあった方がいいなと思っていて。相手が求めるレベルで砕けた会話ができるとか、そういうバリスタ像はかっこいいなと思いますね。

コーヒーを淹れるときの所作が染み付いてしまってるので、家でコーヒーを淹れるときもできるだけ早く動いてしまったりします(笑)。それでも自分が飲む一杯だったり、誰かに飲んでもらう一杯だったりするわけなので、できるだけ美味しいコーヒーを淹れたい。お店で淹れるときも家で淹れるときも、コーヒーを淹れるときのマインドは変わらないです。
コーヒーを飲む瞬間は、できるだけ無になってコーヒーのおいしさに注力したいですね。ただやっぱり、ある程度突き詰めるために飲んでいる部分も絶対ゼロじゃなくて。だから、100%当に肩の力抜いて飲むことは、多分もうできないのかも。というか、できなくてもいいかな。飲むときはやっぱり「産地はどこだろう」とか、いろんなことが頭を巡っちゃうんですよね。
これからも、そうして「舌を鍛えて」いきたいです。鍛えた舌を持ちつつ、それを何か適切な言葉でアウトプットできるようにしたいです。飲んでみたものを頭の中で反芻し、さらにそれを言語化していきたいです。

お客様には、「コーヒーの味わいの違い」の楽しさをぜひ感じていただきたいです。私自身がコーヒーに大きく興味をもつきっかけになったのも、コーヒーの味わいの違いだったので。飲むときは大概一杯だけだと思うのですが、その日飲んだコーヒーと、例えば次の日飲んだコーヒーの違いはどんな部分だろう、とちょっと気にしてみたり。そうすると、よりコーヒーを楽しめるようになると思います。

商品による違い、お店による違い、抽出法による違い、焙煎による違い、産地による違い、生豆の加工法による違い……いろいろ感じてみると、よりコーヒーが楽しくなります。

そうしてコーヒーに注目しているうちに、もうすっかりコーヒーの魅力に取り憑かれてしまうはず。
と同時に、何も考えずぼーっと過ごせる時のおともとしても、うってつけなのがコーヒー。オンにもオフにも傍にある、稀有な存在だと思っています。

旅行が趣味でもあるので、コーヒーの聖地でもあるオーストラリアのメルボルンには、いつか行ってみたいですね。
撮影:yoko