心に火をつける。ここでしか飲めない鮮烈なコーヒーに出合える場所【ignis】

店名の「ignis」は、「ignistion」の造語。ignistionは英語で「天火」という意味がある。心に火を灯し、心をゆさぶるようなコーヒー体験を、という思いが込められている。店内は、白い。いわゆるコーヒーやカフェから連想されるイメージとは少し違うような、洗練という言葉がぴったりとくる都会的な空間だ。カウンターのみの造りは、まるでバーみたい。そして扱うコーヒーこそが、スペシャル中のスペシャル。いままで体験したことのないような、ワクワクが味わえるコーヒーばかり。今回は、そんな「ignis」オーナーの土橋永司さんに話を聞いた。

生産者への敬意を込めて、希少コーヒーを楽しむ

僕のコーヒー歴は、スターバックスから。カフェで働くっておしゃれでいいなって、中学生くらいからなんとなく思ってはいたんですよね。大学時代にスターバックスでバイトし、接客やサードプレイスの概念を学びました。

ちょうど僕がスターバックスに入ったくらいのときかな、ラテアートの世界チャンピオンがアジアで初めて誕生して、世の中が第1次ラテアートブームでした。そこでラテアートに興味を持ち、日本チャンピオンがいる店で修行しました。そうするうちに、コーヒー自体に興味を持ち始めて。ブラックコーヒーを勉強するべく、バリスタ世界チャンピオンのポール・バセットによるエスプレッソカフェ「PAUL BASSETT」で働くことに。そこではコーヒーだけではなく、店の運営や人の育成を勉強しました。そのときのスタッフと一緒に立ち上げた「GLITCH COFFEE & ROASTERS」で5年ほど働いたあとに、「ignis」をスタート。2年くらいになります。4カ所でコーヒーを経験していますが、全部それぞれキャラクターが違う。客層も、雰囲気も、オペレーションの手際も。それ全てが、勉強で糧になっています。

「ignis」の店名は、英語で点火の意味を持つ「ignistion」から名付けていて。昨今、スペシャルティコーヒーのお店が増えていますが、そこでもあまり一般流通していないようなよりスペシャルをお届けすることで、人々に新しいコーヒー体験、心に火をつけるような体験をしてもらいたい。そんな思いを込めています。

それは、普段出せない世界最高峰のコーヒーであったりとか、オークションロットっていてその年の一番おいしい豆を決める品評会で1位になったコーヒーとか。過去最高金額で落札しているようなもの。うちでは、そういうコーヒーが飲めます。

例えば、1杯1万円するコーヒーがあったり。そういう「ちょっとそんなの、体験したことないです!」みたいな感動的な体験を生み出せたら、と思っています。だから、近所の人がふらりと飲みにくるというよりは、わざわざ飲みにきました、みたいな人が割と多いですね。

1杯1万円のコーヒーは、どんな味ですか?とは、よく聞かれますね。言うなれば、全く文句のつけどころがない味。このコーヒーは、エチオピアのオークションで落としたもの。エチオピアのコーヒーで人生が変わりました、という人は多いと思うんです。やっぱり唯一無二のパワーがありますよね。僕もそうでした。僕の人生を変えてくれた国・エチオピアになにか還元できたら、という思いもあります。コーヒーでできたお金で、学校や病院を建てたり、安全に飲める水を普及させる制度を作ったり。そういう気持ちは、ぶらさないようにしたいですね。エチオピア大使館から、感謝状もいただきました。

そんな特別なコーヒーを飲む空間だからこそ、お店の雰囲気も他とは違うものにこだわっています。バーみたいでしょ(笑)

毎月、満月の夜だけ、夜営業をやってるんです。夜中の1時まで。そのタイミングで何かしら、新しい企画をやっていて。カクテルグラスに「シグネチャードリンク」と呼んでいる、コーヒーを使ったアレンジドリンクを注いで、ちょっと違う雰囲気で提供したり。新しいドリップ方法で淹れたコーヒーを提供したりとか、ゲストバリスタ呼んでみたりとか。コーヒーという液体の風味を、こんなふうに表現したら面白いんじゃないかな、という挑戦ですね。

僕がコーヒーをやっていて、こだわっていること。いろんなことがあるんですけど、生産者へのリスペクトは、絶対に大切にしています。僕が今、コーヒーしか出さない店で仕事がちゃんとできている。やりたくないことは、何もしなくていい。これってすごく、贅沢なことです。人生の働いている瞬間を全てコーヒーに注げるのは、それを生み出す生産者のかたの努力があるからこそ。彼らの努力ってすごくて。その結果が20年前じゃ考えられない、ものすごいレベルのコーヒーを生み出すことにつながっているんだと思います。

ワクワクさせてくれるようなコーヒーが、毎年出てくる。その魅力を、伝えていきたい。僕と同じように感動してもらえる人を作っていくことを、ベースに考えています。

コーヒーマニア向けのものだけど、そのよさを一番消費者に近い僕たちが価値にしていく。それは、言葉だけじゃなくて、ちゃんと数字として。例えば、働いてくれるスタッフの給料に反映させるとか。

僕はずっとコーヒーをやっていたいから、僕が60歳になってても、ずっと立ってられる街がよかった。「あのじいさん、ずっとコーヒーやってるよね」みたいに言われても、しっくりくるような気がいいなと思い、ここ千駄木でやっています。クラシカルな古き良き空気がありつつも、裏路地に入ると新しいかっこいいものがある。そんなこの街が好きです。

僕の理想のコーヒーの楽しみ方は、夜飲むこと。僕は早起きが苦手なので、朝コーヒーを飲むというよりは、夜仕事終わった後、深夜でも、特別なコーヒーをゆっくり飲むのが好きですね。音楽を聴きながらコーヒーを飲んで、妄想する時間。そんな時間が好きです。

プライベートで飲むときは、あえて計量などせずに、そのときのテンションで感覚で淹れてみる。やんちゃな感じで、少年の心を忘れずに。ここは逆に数字にとらわれることなく、素直な心でいたいですね。ロジックにとらわれすぎないで、フラットな心でコーヒーを楽しみたいですね。時代によっても、コーヒーは形を変えていくものだと思いますし。

撮影:yoko

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